広汎性発達障害 《学習障害、注意欠陥多動性障害、適応障害》

 【調査票】は予想通り、全問回答するのに非常に時間を要した。最も大きな理由は、単純に字を書くスピードが遅いからであるが(それと、どうしても力が入ってしまうので、腕が疲れやすい)、質問の数も多く、またその一つ一つに於いて、回答の記述量が多くなった。
 古くは幼少期から、新しくは社会人になって以降まで、各年代の自分自身をつぶさに振り返りながら、ほとばしるように、かつ正直に回答していくのである。従ってその回答の中身が、イコールこれまでの私の人生のプレイバックとなるのだが、その具体的内容についてはまた後で述べる。
 調査票の中で、最も多く出てきた質問を抜粋してみる。


 ◆「空気が読めない」と言われることはありますか? 答え:ある。
 ◆人を傷つけることを言ってしまうことがありますか? 答え:ある。
 ◆すぐに周りが見えなくなって、混乱したりすることはありますか? 答え:常にある。
 ◆被害者意識が強いことがありますか? 答え:かなりある。
 ◆特定の分野や話にのみ興味を持ち、熱中する事がありますか? 答え:常にある。


 2013年11月19日、2度目の診察に行った。
 この時は調査票を提出した後、再び私が自分の日頃の状態を切々と述べた。その内容はおよそ以下のとおりである。

1.音に敏感である。特に尖った音や、自分で立てるつもりがなくて、自分の身体の動線が原因で急に音が鳴った場合は、激しい嫌悪感と怒りを覚える。また、痛みにも敏感で、これも尖った痛みに特にダメージを感じる。


2.人の身体と接触するのが苦手で、接触しそうになると自分の身体を少しでも狭くしよう、縮めようという気持ちが働いて身体が硬直する。また、よけようと意識し過ぎて結局相手がよける方向によけてしまう。背後から近付かれるのも苦手。


3.人の話を聞いている時でも、ちょっと横で雑音がすると、そちらに気を取られる。それに何より話のスピードに付いていくことに対して疲れやすく、長時間人の話を聞くのが至難の業である。話を聞きながら、同時にメモを取るのも大変苦手だ。


4.聞くのと同じく、集中して早く読むことも苦手。特にみんなで一斉に同じ物を、ある制限時間内に読む時は、読むスピードの遅さを克服しなくては!と焦り、結局集中力が続かない。


5.同時に複数の事をこなすのが大変苦手で、複数の状況に同時に集中しようとすると疲労がピークに達し、思考不能の状態に陥る。その状態の私を知らない人が見たら、やる気がなくてボーッとしている様にしか見えない。


6.周りで大勢(少なくとも3人以上)の人が早口で喋ったり盛り上がったりしていると、自分の頭の中では、頭上で音声が反響して交錯しているだけのように聞こえる。会話の流れから完全に外れ、自分の世界に入ってしまう。


7.「忘れるといけないから先に準備しておこう」と思った瞬間、同時に注意を向けるべき他のことを思い出すと、それだけやって、先に準備しようとしていた事は忘れてしまう(もう準備をしたと錯覚する)。


8.とにかくドンくさい。動作が遅かったり動きがぎこちない時は、怒りで顔面に力が入る。予め一つ一つの作業の制限時間を自分で決めており、自分の動作が原因で時間オーバーしたり、作業が進まないことが許せない。舌打ちも多くなってしまう。


 「なるほどね〜」と先生は言った。でも、驚いた顔一つ見せない。
 続けて私は訊いた。「先生から診て、私は自閉症というのはあると思いますか?」
 自分でも、覚えがあるとないで半々だったので訊いたのだが、先生の答えは、「今のところ、私の中では自閉症は認められないですが、やや自閉的傾向、というのはあるでしょうね」というものだった。


 そして12月3日がやってきた。いよいよ、発達障害で有るか無いかの重要な判定材料になる、心理兼IQ(知能)テストを受ける時だ。
 テストは臨床心理士によって行われ、開始に先立ち、今一度テストの主旨・目的が説明された。
 「このテストは、その人の能力の特徴や傾向を捉えるために行うものです。決して優劣をつけたり、成績が悪かったらダメだというものではありません。点数を割り出しますが、高い低いを見るのが最終目的ではなく、その人の向き不向きを見て、どのような支援が必要かを知る手がかりにします」


 主旨に同意したところで、テストが開始された。合計実に2時間のテストで、私が覚えている限り、中身はザッと以下のようなものであった。
 @絵の中から、何か一つ足りない部分を見付ける。
 A積み木やブロックを組み立てて(並べて)、描かれている絵のとおりの形を作る。
 B聞いた数字を暗記して復唱する。
 C絵を見たり、言われた単語を聞いたりして、それの記憶テスト。
 D与えられた法則に従って、前のページの画を次のページに再現させる。
 E言葉の意味、一般常識テスト。
 F算数〜数学的な問題。
 G「こういう状況の時、あなたはどうしますか?何故?」という質問(中身は失念)


 私は決して、「高得点を取ってやろう」と構えていたわけではない。ただベストを尽くして一問一問、確実にこなしていこうと思っただけなのであるが、どの項目も最初の数問こそ簡単だったものの、その後急激に難しくなり、総じて大苦戦となった。2時間ノンストップでやり切る集中力が無く、途中15分ほどの休憩をもらったりもした。図に描かれているとおりに積み木を組み立てるという問題は、特に難しくて頭の中がこんがらがった。
 ひたすら同じ法則に従って何かの量をこなすという問題も、途中からどうしても法則が判らなくなり、やり方がバラバラになった。


 正直言って、合否が決まる入試のテストや、他のクラスメートと成績が比較される学校のテストとは違うのだから、緊張はしてももっと楽しめるかと思っていたのだ。しかしそれは甘かった様で、私は頭脳を使い果たして疲労困憊になってしまった。
 「いや〜、こんなにハードだとは思っていなかったです」と、私は試験官を務めた臨床心理士に感想を洩らした。
 「試験の結果は2週間後に出ますので、次は12月17日に来て下さい」と、帰りの受付で言われた。12月17日、職場の年に一度の大イベントを挟んで、1週間以上ぶりの休みの日だ。この日・・・・・果たして・・・・・。


 下された診断は、『広汎性発達障害』・『注意欠陥多動性障害(ADHD)』・『適応障害』だった。先生曰く、「疑いの余地なし」。そして広汎性発達障害という時点で、『学習障害(LD)』も含まれているとのことだった。
 この日、先生からの診断に先立ち、先ずは臨床心理士より、前回受けたテストの結果報告と総括がなされた。
 それによると、私のIQ(知能指数)は、全体で99ということだった。「惜しい!あと1点でキリのいい100だったのに」と思わず言いかけたのは、少々軽口が過ぎただろうか?99という数値が高いのか低いのか、自分では判らなかったが、『平均は95〜110ぐらい』ということだったので、それならば平均には届いていることになり、正直、何となく安心感も覚えてしまった。


 ただ、細かく分野別に見ると、
  ●知覚統合(目で認知し、形を認識する。非言語的な推理能力)=79
  ●動作性(正確に書き写す、該当する記号を注意して選ぶ)=76
  ●処理速度(早く対応して、状況を飲み込む)=75


 いずれも平均を大幅に下回るIQとなっていた。因みに現在の基準では、70以下が知的障害に該当するということである。


 これまでの私の人生からして、ある程度低い数値が出ることは想定はしていたが、さすがに、これからも引き続き社会人としてやっていくには、厳しい数字だと感じざるを得なかった。
 その一方で、高い数値も出ていた。
  ●言語理解=105
  ●言語性(耳から聞いた情報をもとに考え、発展させる)=117
  ●数字暗記=140


 飛び抜けて高い『数字暗記=140(これがあるから全体IQも99と、平均圏内に届いたのだろう)』は、私が幼少時から電車やバスが好きで、車両に書かれている番号をチェックしていたのが効いての数値だった。日常的に趣味で番号を(意味のあるものとして)覚えようとするものだから、自ずとIQの数値も高くなっていたのだ。
 何か一つでも抜きん出ている能力があるというのは、幸せなことだと感じるが、『ある特定の能力が極端に優れている』ことは、それ自体、発達障害の大きな特徴の一つでもある。


 全体の総括=このテストから見えてきた私の特徴というのは、以下のとおりである。いずれも普段の私そのまんまであると同時に、一般的に発達障害の特徴とされる事項である。


 ●得手不得手のアンバランスが非常に大きく、このことが自分を苦しめている。
 ●言われたことは理解するが、自分で『これだ』と思ったら、相手(本来の方向)からズレた行動を取る。
 ●周りに合わせるのが苦手。
 ●「こういうことを言ったら相手はこう感じるだろう」と推察するのが苦手。
 ●臨機応変≠ニいうのが苦手。
 ●要点を捉えて伝えるのが苦手で、相手に伝わるように伝えることが、なかなか出来ない。
 ●目で見た情報を素早く処理するのが苦手。
 ●周囲の協力というのはかなり必要。


 この中で、私が特に反応したのは、【臨機応変というのが苦手】である。実際、言葉を聞くのも怖いぐらい苦手で、【機転を利かす】というのも同じくである。人から「臨機応変に!」「機転を利かして!」と言われても、しばしばその言葉の指す具体的な中身が理解出来ない。


 なお、テストの結果を分析することで、私自身が『しんどい』と感じていることが整理されたということで、結果は“しんどさ度数”が高い順に、@社会的スキル、Aコミュニケーション、B注意の切り替え、C細部への注意、である。確かに覚えは有り過ぎるほど有る。
 Cの『細部への注意』なんて、「いかにも!」という感じだ。


 こうして私は40歳5ヶ月にして、発達障害と診断されるに至った。


 これまでずっと、「直したい!直せるはずだ!」と思っていた自分の特徴は、発達障害としての典型的な特徴で、『直せる』ものとはまた違っていたのである。
 そして先生の所見を聞いてハッキリ認識したこと。それは、
 【“健常者”というカテゴリの中では、「変わってる」、「個性が強い」と言われきた私だが、“発達障害者”というカテゴリの中では、「ごく標準的」、「典型的」と言われる人になる】ということである。


 物心が付いてこの方、ずっと【自分の生の感覚】と、【頭では理解している、普通の人の感覚】との狭間で格闘してきた。普通の人の感覚そのものが理解出来なくて苦しむことは、何度あったか分からない。
 例えば何かが起こって、『自分はしんどい!』と感じても、それが普通の人にとっても『しんどい』なのか、自分一人にとっての『しんどい』なのか、非常に判別が難しかった


 『一般的にもしんどい』ことであれば、それは『正しいしんどい』ということになり、自分も安心して「しんどい」と言える。
 でも、一般的には『何がそんなにしんどいのか解らない』と見なされる場合は、それは『ズレたしんどい』、『間違えたしんどい』となってしまい、したがって『しんどいと感じるな!』と、自分を戒めなくてはならないのである。
 ことに何かにつけ、“大人として”振る舞うべき場面では、『間違えたしんどい』が表に出るのを、絶対に抑えなければならなかった

 
 ある時は、本当は『間違えたしんどい』なのに自分では『正しいしんどい』だと思い込み、自分の置かれている状況について訴えたために、周りから反発を食らうこともあった。
 このようにして、ことある毎に私は、世の中との溝の存在を自覚してきたのだったが、これからも日常は健常者社会で生きる割合も高いから、障害の特徴と判明しても、無理のない範囲でそれをコントロールしていかないと、社会では受け入れられにくい気がする。


 これら以外にも私には、“自分では前から分かっている”という特徴が幾つもある。

道具を扱うのが非常に苦手で、ちょっとした物の、フタの開け方や外し方、回し方や閉め方などが分からない。さんざん苦労した挙句、実はいとも簡単に解決出来たということが判ると、何だかガッカリしてしまう。
先端恐怖症とまではいかないと思うが、突起物や角が尖った物、棒状の物に、身体や衣服の一部が引っ掛かると、ゾッとして顔が歪む。思わず悲鳴を上げて、発作的に恐怖心に駆られる。
手先が不器用なので、滑らかに動かしたいと意識するあまり、細かい手作業をしようとして、焦って指が攣ったような状態になり、しばらく指を激しく振って緊張をほぐさないといけない。
ふとした切っ掛けで、自分がとてつもなく理不尽な目に遭った場面を勝手に想像してしまい、怒りや絶望の感情がそのまま顔に出る。一度想像が始まると止まらなくなり、後で思考が働かないぐらい、グッタリと疲れる。人に話しかけられても、すぐには現実に戻ってこれない。
映画やドラマを見ていて、いろんな登場人物が出てくると、段々関係性とか相関図が判らなくなってきて、進行に付いていけなくなる。不意に「この人はどういう立場の誰だっけ?」となってしまい、記憶が飛んでしまう。話の筋も分からなくなる時がある。
何かをしようとして思い掛けないミスが連続すると、とっさに『自分は実はこの行為をしたくないのだ』と無理してでも言って聞かす。そして今からやろうとしていた事を一切キャンセルし、全く別の予定・行動に切り替える。
『これが正しい』と解っていることでも、いざやろう(言おう)としたら、『でも、もし間違っていたら?』と急に不安になって、やるのを(言うのを)躊躇してしまう。結果、機を逃し、あとで「勿体ないな」と悔やむ。
パソコンやキーボード、プリンターなど、物に怒りをぶつけてしまうことが多い。人や生き物には当たらないが、何故か昔から物に対して非常に短気である。特に起動が遅い、エラーが出たなど、【待つ】ことや【やり直す】ことを極端に嫌う。


 まだ探せば見付かるかも知れないし、これらが全て発達障害の影響であるとは断定出来ないが、人知れず気付いていても、それは通常の健常者の感覚に照らすと有り得ないものだから、『自分の性格の悪い部分が出ている』と見なしていた。そして、人にビックリされたり何か訊かれた時には、決まって誤魔化していたのだった。


 2013年12月17日、【健常者の看板】返上。



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【40歳からのニューアイデンティティー  広汎性発達障害と診断されて】